正夢を経験したことはありますか?
夢で見たことが現実の世界で起きるという正夢。
私も何度か経験したことがありますが、現実に起こった瞬間の不思議な感覚は何とも言えません。
ただの勘違いではないかと思ってしまう気持ちも強く、正夢を信じているかと言われると正直微妙なところです。
ちなみに私の正夢は学生時代の部活に関して多かった記憶があります。
大人になると経験する回数が減っている気がしますが、それは記憶力の問題なのか、潜在意識の問題なのかは分かりません。
というよりそんなことを考えたことがこれまでありませんでした。
ではなぜ正夢の話を思い出したのか。
それは、現実と夢が交錯する至上のゲーム小説に出会ったからです。
これは正夢とは少し違う、夢にまつわる冒険のお話。
しかしファンタジーと切り捨てられない、もしかして私たちの現実かもしれないお話です。
今回紹介するのはこちらの本です。
クジラアタマの王様/伊坂幸太郎
伊坂幸太郎さんと言えば、物語の構成や会話の面白さに定評のあるミステリー作家。
特に構成に関しては様々な人物や時系列を飛び越えた交錯が特徴的で、作品ごとにあっと驚く伏線回収が楽しめます。
「あすよみ!」でも多数の作品も取り上げている、大好きな作家さんです。
(大好きが故に、紹介の仕方に悩みまだお届けできていない作品がたくさんあります。それぐらい私の中でトップに君臨する作家さんです)
今回はその交錯が現実と夢となります。
一見するとファンタジーのような設定。
しかし、ただのファンタジーで終わらせない巧妙な仕掛けによってリアリティの感じられる壮大な作品となっています。
一言で表すとこんな作品
「クジラアタマの王様」は一言で表すとこんな作品です。
夢の世界の選ばれし勇者となった3人の男たちの現実と夢の冒険物語。
しかもその3人が、タイトルにも書いてある通り会社員・議員・アイドルという全く異なる3つの立場の人間なのです。
現実世界で接点がなかった3人が、とある事件を通して少しずつ交わっていきます。
そしてそこから広がるいくつものトラブルにより現実世界は急展開していきます。
どうですか? ちょっと気になってきませんか?
あらすじ
製菓会社の広報部で働く主人公の岸。
ある日、彼の会社のお菓子をとあるアイドルが紹介したことで一気に人気商品になる。
そんな中、岸は先輩から、お菓子に画鋲が入っていたという異物混入の問い合わせの対応を引き継ぐことに。
問い合わせは記者会見に発展。
しかし、ことの重大さが分かっていない上司の発言で事態は収まるどころが大炎上に。
クレーム対応に定評がある岸はその対応の指揮を執ることになり、右往左往しながらトラブルに対峙する。
悪意・非難・罵倒。
様々な感情をぶつけられ疲れ果てる岸だったが、追い詰められたその状況を変えたのはとある議員だった。
突如登場したその議員により事態は急展開。
さらに、岸に対して個人的な話があるといいとあるカフェで話をすることに。
そこで聞かされる「とある夢の話」をきっかけに、彼の日常はさらに変化していく。
夢と現実が交錯する至上のゲーム小説。
3つの特徴
ここからは「クジラアタマの王様」の3つの特徴を紹介していきます。
夢と現実が交錯するゲーム小説
まずは本書の世界観についてです。
伊坂幸太郎さんの作品は現実の延長線上の舞台が多いと思います。
伊坂さん自身が住んでいる仙台が舞台になることが多く、知っている地域名が出ることも多くあります。(地元の方からすると街の景色も親近感が湧くのではないでしょうか)
もちろん「クジラアタマの王様」もメインとなる舞台は現実世界。
あらすじでお話しした通り、とある製菓会社の広報担当が主人公です。
しかし、池野内という議員から聞かされたとある夢の話がきっかけで、夢と現実がリンクするように展開していきます。
具体的には、夢での戦いの結果が現実世界に影響を及ぼすということです。
一見するとゲームの世界のような設定ですが、そこをうまく現実世界と結びつけて展開していくのが今作品の大きな特徴と言えます。
夢の世界観が入りすぎると読んでいて興醒めしますし、夢が現実の世界のままだと面白みがない。
そんな難しいバランスをうまく調整し、ハラハラドキドキさせてくれるのが「クジラアタマの王様」です。
夢で勝てば現実でも勝てる
1つ目の特徴の続きでもありますが、夢の設定が大きな特徴なので取り上げました。
この「クジラアタマの王様」は挿絵が随所にありますが、それは夢の中の景色を表しています。
最初見た時、何を表している絵なのだろうかと不思議に思いましたが、読み進めるうちにすぐに分かります。
少し脱線しますが、この挿絵が実にいい塩梅で作品の魅力を引き立ててくれるんですね。
細い線で描かれるシンプルな絵で、どこか儚い印象を覚えました。
しかしそれが夢の景色だと分かってからは、このタッチは夢の朧げさを表しているのかと思い一気に納得感が高まりました。
そして、文字だけでは表現しづらい夢の世界というものを読者が想像しやすいようにとてもサポートしてくれます。
私は絵が得意じゃないので詳しくは言えませんが、夢の世界を表す本作品にとって世界観に入り込めるとても重要な役割を果たしていると感じました。
(絵は川口澄子さんという画家さんが描かれたようです。ペッパーズゴーストも描かれているようです!ブログやTwitterもあるようですのでぜひチェックしてみてください!)
さて、夢の設定についてに戻ります。
夢で勝つと現実世界でも勝てるという設定。
挿絵を見ると、戦士と思われる男が何かの動物と戦っている様子が描かれています。
また、他の場面では別の男が指名手配書のように顔が描かれた紙を手に取って眺めています。これらの場面が何を意味するのか、何をもって勝ちとなりどういう風に現実で勝てるのかは本編をお楽しみください。
ここで言えることは、この夢の勝ちが現実の勝ちになるという設定が随所で要点となるということです。
私たちが生きるこの世界の正夢というのは、もしかしたらこの設定に近いのかもしれませんね。
会社員×議員×アイドル 不思議な交わり
3つ目の特徴は登場人物の組み合わせ。
会社員・議員・アイドル
一体この3つの人物がどうやって組み合わさるのか?
字面だけでも不思議に思いませんか?
ここまで書いてきた通り、会社員とは主人公の岸。
そして議員とは突如岸の前に現れた池野内議員。
アイドルは誰なのか?
実はこのアイドルが、岸の救世主となり、その後不思議な関係性へと続きます。
伊坂さんの作品は突拍子もない出来事なのに、現実の世界で起きてそうなリアリティーがあると感じてしまいます。
きっとそれは登場人物の生活感のある考え方や、人間の核心を突くような巧妙なセリフなどによるものだと思います。
もちろん今作でも伊坂作品の魅力であるセリフの面白さもありますが、個人的には今回は世界観の面白さが優っている作品ではないかと思います。
ゲーム小説に取り組んだことで、伊坂ワールドの幅が広がった作品になったと思います。
まとめ
今回は伊坂幸太郎さんの「クジラアタマの王様」を紹介しました。
主人公の前に現れるとある議員と人気アイドル。
夢と現実が交錯し、夢の世界で勝つことで現実世界に勝とうとするお話です。
あまり詳しく書くとネタバレになるのがもどかしいですが、「面白い!」ということだけは声を大にして伝えたいと思います。
色々な本を読みますが、私の小説の原点は伊坂幸太郎さんであることは間違いありません。
読むたびに、故郷に帰ってきたような安心感と、そして進化する駅前に驚くようなワクワク感があります。
伊坂さんの作品を読むたびに、何かおしゃれな言い回しができないかと思ってしまうのはきっと皆さんも経験があるのではないでしょうか。
この記事もうまく締めたいのですが、思いつかないのでもう終わりにします。
あ、そうだ言い忘れていました。
タイトルの「クジラアタマ」が何かですが、それは物語のケツで分かります。
目くじらを立てず最後まで楽しみながら読んでみてください。
それではまた。
ありがとうございました!
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