犯罪のプロたちの暖かい家族愛。
まったくもって矛盾しそうな言葉。
それが絶妙なバランスで成り立つとある家族があるのです。
それが、赤川次郎さんの「〇〇の殺人」シリーズに現れる早川一家なのです。
「〇〇の殺人シリーズ」は下記3作で構成されています。
- ひまつぶしの殺人
- やり過ごした殺人
- とりあえずの殺人
2021年より新装版が出ておりまして、カバーもポップで手に取りやすい装丁になっています。
今回、私はこの新装版で3冊を読みました。
というわけで今回はこの3作をまとめて紹介していきたいと思います!
きっかけは伊坂幸太郎さん
今回私が赤川次郎さんの作品を読み始めたのは、伊坂幸太郎さんの「3652」というエッセイがきっかけでした。
「3652」は伊坂太郎さんの仕事の裏側や日々の生活、そして影響を受けた本などが紹介されています。
その中の「僕を作った五人の作家、十冊の本」という章で紹介されていたのが赤川次郎「ひまつぶしの殺人」でした。
私は大の伊坂作品愛好家ですので、その内容を見てすぐに本屋に駆け出しました。
そうして出会ったのが赤川次郎さんです。
名前は以前から知っていましたが、作品数が多いので何から読めばいいか分からず挑戦することが出来ませんでした。
そういった意味でも、伊坂幸太郎さんの本で紹介されていたのは良いきっかけになりとてもありがたい気持ちでいっぱいです。
※伊坂幸太郎さんの「3652」はこちらの記事で紹介しています。ご興味のある方はご覧ください。
赤川次郎「〇〇の殺人」シリーズ(早川一家シリーズ)とは?
ここではまず「〇〇の殺人」シリーズの概要を紹介したいと思います。
このシリーズの中心は早川一家となります。
早川一家は、母・長男・次男・長女・三男の五人で構成されています。
(第一弾「ひまつぶしの殺人」にて父が亡くなっていることが触れられます)
「ひまつぶしの殺人」の冒頭は家族で朝の食卓を囲みながら、それぞれの仕事やニュースで話題になっている大富豪の話などを慌ただしく展開しています。
小言を言ったりする様子はまさに温かな家族の会話そのもの。
一見すると普通の家族なのですが、実は裏の顔があります。
長男はルポライターを名乗りながら、実は殺し屋。
長女はインテリアデザイナーをしながら、実は詐欺師。
そして母は美術商の店を営みながら、実は大泥棒。
さらにそれぞれの正体を知っているのは次男(弁護士)だけ!
他の人は表の顔しか知らず、それぞれの裏の仕事を遂行していきます。
(次男は家族の平和を第一に考え、裏の顔が家族内にバレないように奔走します。その様子は第一弾「ひまつぶしの殺人」でお楽しみいただけます)
三男は警察官でありながら、そんな裏の顔に気付くこともなく、持ち前の正義感で日々様々な事件に取り組んでいます。
「〇〇の殺人」では作品ごとの事件に対して、それぞれの立場(表の顔・裏の顔込みで)から事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりします。
お互いの裏の顔を知らない中で、どのように事件を解決していくのか?
暗躍と協力が絶妙に交錯しながら展開される物語はハラハラドキドキの連続。
それをふんだんに楽しめるのは読者だけ。
一家ですら分からない全貌(秘密)をこっそり知りながら読み進めることができます
こんな人におすすめ
赤川次郎さんの「〇〇の殺人」シリーズはこんな人におすすめです!
- ミステリー小説に興味がある人
- 犯罪×家族の愛を楽しみたい人
- リアルな殺人などの描写が苦手な人
各作品はとある事件(しかも複数だったり)を中心に、家族がそれぞれの立場から関わり合いながら展開されていきます。
その事件は盗み・殺人・詐欺など多岐に渡ります。
そういった事件を解決していくという意味で本シリーズはミステリー小説と言えますが、どちらかというとライトな分類だと感じます。
壮大な仕掛けがある本格ミステリーとは違い、物語のテンポやストーリーを楽しみながら読み進めることができます。
タイトルにも書いてる通り、軽快ミステリーというのが合っているのではないかと私は思っています。
もちろんミステリーで事件を取り扱う以上、殺人のシーンなどもあります。
しかし本作の特徴である軽やかな場面転換や描写のおかげで、重くなりすぎず読めます。
(この点、本格ミステリーや精密な描写が好きな人にはおすすめできない理由とも言えます)
なので、人が死ぬシーンは苦手だけどミステリーを楽しんでみたいという人にはとてもおすすめのシリーズと言えます。
登場人物(早川一家)の紹介
前章でも少し触れていますが、ここで改めて登場人物を紹介したいと思います。
各作品でもユニークなキャラがそれぞれ登場しますが、ここでは全作品に登場する共通の人物に絞ってご紹介します。
早川香代子
早川一家の母。表の顔はとあるビルにて美術商を営むオーナー。裏の顔は業界でも有名な泥棒の親分。2人の子分(小判丈吉・土方章一)を連れて様々な泥棒を行う。家族思いであり面倒見も良く、ビルでも色々な人の人生相談に乗るほどの人気者。
早川克己
早川一家の長男。ルポライターを名乗りながら、裏では殺し屋として人殺しを請け負う。殺し屋としては、裏の世界の人間しか手を出さないというポリシーを持っており、人間味のある一面も併せ持つ。兄弟思いとプロとしての嗅覚を元に、様々な事件の裏側で大きな活躍をする。
早川圭介
早川一家の次男。弁護士をしながら、唯一家族の裏の顔を知る者として家族の平和を守るために奔走する。妹の美香の事務所の秘書にこっそりとお願いをして、美香の行動を気に掛けている。
早川美香
早川一家の長女。表の顔はインテリア・デザイナーで、裏の顔は詐欺師。インテリアデザイナーとして事務所を構えており、そこでは秘書の河野恭子と共に働く。詐欺師としてはは高校生や年上の女性など、様々な姿に変装しながら男に近付くことが多い。
早川正実
早川一家の三男。強い正義感を持つが優しさやドジも併せ持つ新米警察官。思い込みも激しいので落ち込む場面や早とちりする場面も多々あり。まさか家族に犯罪者がいるとはつゆ知らず、犯罪を撲滅すべく日々励む。
小判丈吉
香代子の泥棒家業の子分の1人。長身で細身。
土方章一
香代子の泥棒家業の子分の1人。小さくて小太りな体型。鍵を開けるプロ
河野恭子
美香のインテリアデザイン事務所の秘書を務める。圭介から美香の同行を報告するようにお願いされており、美香が怪しい動きをした際は圭介に連絡を入れる。
見どころ
ここでは「〇〇の殺人」シリーズに共通する3つの見どころをご紹介!
ありえない一家の活躍と暗躍の絡まり合い
まずは登場人物の設定のユニークさが挙げられます。
母・長男・長女が犯罪者としての裏の顔を持ち、かつそれぞれの裏の顔は知らないという状態。
そんなハラハラする家族は、それぞれの立場から事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりしていきます。
表の顔として協力することもあれば、裏の顔として事件に直接対峙する場面もあります。
お互いの本職を知らないのに、結果的にはそれぞれの暗躍が事件の解決に繋がっていく。
まさに読者だけが秘密を知りながら読み進めることができるというワクワクを体感することができます!
どんどん読みたくなる場面転換と描写の軽やかさ
このシリーズの構成の大きな特徴としては場面転換が非常に多いことが挙げられます。
1つの章は短いですが、さらにその章の中でも場面(人物)転換があります。
トリックとしての場面転換としてではないので、読んでいれば場面転換に気付き読み進めることは問題ありません。
しかし、そういった文章に慣れていない人は最初は戸惑うかもしれませんので、少し意識していただければと思います。
登場人物が多いので場面転換が多いのは仕方ない、というよりむしろその場面転換の多さが物語全体にスピードを生み出し一気に読み進めたくなります。
また「こんな人におすすめ」でも書きましたが、描写も軽やかなので事件現場などもリアル過ぎずエンターテインメントとして楽しむことができます。
場面や心情なども複雑に描かずシンプルな描写ですので、すんなりと理解できます。
こういった軽やかな展開や描写があるので、殺人事件という重い展開も読者が楽しめるようになっています。
家族の愛
なんと言っても家族の絆を感じられます。
早川一家は家族で交流する場面が多くあります。
一家全員が集まるのは各話で1~2回ほどですが、事件の途中では何度も家族同士で会話し情報交換を行います。
その中ではお互いの状況を案じたりする会話があり思いやりが伺われます。
家族に何かあったときには一目散に集合する様子はとても心が温かくなります。
そして何より母の存在。
皆が母のことを大事に思い、そして母自身も家族を思って暗躍する。
それぞれの裏の顔を知らないといえ、お互いを思いやる優しい気持ちは全員が持っています。
特殊な一家でも家族の絆は強く、それがこの一家に親近感が湧く一番の魅力かもしれません。
シリーズの紹介
それぞれのあらすじを簡単に紹介!
暇つぶしの殺人
あるとき、謎の石油王が帰国しダイヤモンドの展示会を行うというニュースが流れる。
大泥棒の母と詐欺師の長女がそのダイヤモンドを狙おうとする中、警察官の三男がその展示会の警備の責任者に抜擢。
母と長女を止めるためにこっそり跡を付ける次男。さらには長男も・・・
とあるホテルを中心に展開される、ダイヤモンドと石油王を巡るミステリー
やり過ごした殺人
家族が増えて一家安泰と思われた日々。
そんな中、殺し屋である長男の元にとある殺人の依頼が。
妻の浮気相手を殺したいという依頼だったので断ろうと思ったが、その浮気相手の名前はまさか三男の正実?
警察官であり正義感の強い(そして女性慣れしていない)三男がそんなことをするとは思えない長男は、その真相を知るべく依頼を受けて調査を始める。
そして当の正実にはお見合いの話が舞い込み、幸せだと思われた次男にも魔の手が忍び寄り・・・
とりあえずの殺人
電車の中で女を狙いナイフを忍ばせた男を見つけた長男の克己。
その男を止めると、実は犯罪ではなく大学の調査だと。
変な親切をしてしまった克己はその後、駅でとある殺人を実行する。
しかしその殺人現場を先ほどの女子大生に見られてしまった?
さらには女遊びを繰り返すアパレル会社の社長の周りで起こる連続殺人に巻き込まれ、事態は複雑化していく・・・
長男克己に降りかかる最大の危機をどう乗り越える?
最後に
今回は赤川次郎さんの「〇〇の殺人」シリーズとして「ひまつぶしの殺人」「やり過ごした殺人」「とりあえずの殺人」の三冊を紹介しました。
第一弾の「ひまつぶしの殺人」は1978年初版ですが、古さを感じさせず今でも十分に楽しめます。
会話が多く文章も難しくないので、読みやすいシリーズです。
ページ数の割に早く読み終えることができると思います。
犯罪×愛に溢れる早川一家の活躍をぜひ皆さんも楽しんでみてください!
私はこの作品をきっかけに赤川次郎さんを読みました。
赤川次郎さんは他にもたくさんの作品があるので、ぜひ他の作品もどんどん読んでいきたいと思います。
(赤川次郎さんのファンがいればおすすめの作品を教えていただけると嬉しいです!)
それではまた別の記事でお会いしましょう。
ありがとうございました。
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