「限りある時間の使い方」
この本を「効率の良い生き方(ライフハック)を学ぼう」と思って読むと痛い目に遭います。
実際、僕がそうでした。
まずはこの本に出会った(そして痛い目に遭った)経緯を少しだけ紹介します。
僕は2022年に転職をしました。
正確には、東京の会社を辞めて家業を継ぐために実家に戻りました。
家業に入り約半年ほど。 自分の生活リズムも少しずつ固まってきました。
家族経営のメリットでもあるのですが、意見が通りやすかったり、家族という関係に甘えてしまう部分もあり、サラリーマンだった頃よりは随分スローペースで生活できるようになりました。
おかげさまで精神的にはかなり落ち着き、出会う人に「若々しくなったね」と言われるほどに。
家業では自分1人の領域の仕事を行なっているので、内容もペースも基本的には自分で決めて進めています。
自分で決められる安心感がありつつ、「このペースでいいのだろうか」と不安になる瞬間も多くなってきました。
「もっと仕事のペースを上げたり、生活の質を上げて、効率良く生きるべきではないか?」
そんな思いが生まれてきたところで出会ったのが「限りある時間の使い方」でした。
タイトルを見て最初に思ったのは「よくあるタイムマネジメントのライフハック系の本だろうな〜」ということでした。
これまでにも何冊もそういう本を読み、いくつかの内容を実践し、いくつもの挫折(頓挫)を繰り返してきました。
そういった本からは一定の距離を置いていたのですが、今回は何故か気になって手に取ってしまいました。
「大きな期待はせず、ちょっとした時間術を学べればいいか」ぐらいの気持ちで読み始めたこの本。
そして冒頭に戻ります。
甘い考えで読み始めた僕に見事なクロスカウンターを決められました。
そうして出会った「限りある時間の使い方」
遠回りしましたが、同じような気持ちでこういった類の本を読む人は多いのではないかと思い少し詳細に経緯を書いてみました。
ではここからは「限りある時間の使い方」の内容に触れていきたいと思います。
限りある時間の使い方/オリバー・バークマン
こんな人におすすめ
「限りある時間の使い方」はこんな人におすすめです。
- 「効率的に生きたい」と思いそして失敗してきた人
- 従来の時間術の本に飽きた人
- 社会や会社のスピード感に付いていくのが難しいと感じる人
僕は1つ目と2つ目に当てはまっていました。
また3つ目には「スピード感」という言葉を挙げました。
もしも周りのスピードに疑問や苦労を同じような気持ちを抱える人は、ぜひこの記事を読み、そして本を手に取ってみてください。
僕が「痛い目に遭った」と感じた3つのポイント
ここからは「限りある時間の使い方」を読んで打ちのめされた3つのポイントを紹介します。
軽い気持ちで読み始めた僕が、読んでいて苦しくなった部分と言えます。
ぜひ一緒に打ちのめされてください。
1.「効率的に生きる」ための時間術とは一線を画す、人間と時間に関する考え方が学べる
多くの時間術の本では「ポモドーロテクニックを使おう」「朝のルーティンを固めよう」などのテクニックが紹介されています。
もちろんこれらのテクニックや考え方は有用で、実践できれば1日の生活や仕事が効率よく進むことでしょう。
ただしここで考えたいのは「効率よく生きる」ということの意味です。
果たしてあなたは効率よく仕事をして人生が楽になったことはありますでしょうか?
おそらく多くの人は、効率よく物事が進んだ分、新たな仕事が増えたのではないでしょうか。(些細なことから難しい仕事まで様々な)
これは仕事ではなくても、プライベートにも当てはまるでしょう。
最新家電で効率よく家事ができるようになった分、他の家事や人間関係、ボランティアや趣味の活動をさらにしないといけない状態になったことはありませんか?
楽をするための機械やテクニックのはずが、それを使って効率よく進むことでより仕事やタスクが増える。
もちろんそうして量が増えることで経験値や体験などが増えることはあるでしょう。
でも、そこには限界があります。
1人の人の経験値には限界がありますし、その限界を突き詰める過程できっと疲れたり壊れたりしてしまいます。
まずは「効率的に生きる」ことは本当に正しいことなのかを見直す必要があります。
「なんかいいライフハックはないかな〜」と思って本を読み始めた僕の最初の痛い目でした。
2.「未来のために今を頑張る」「マインドフルネスで今を生きる」どちらのタイプも実は一緒
時間軸を中心とした、時間の捉え方には大きく3つあると思います(これは自論です)
- 過去を生きる
- 今を生きる
- 未来を生きる
「過去を生きる」は過去の栄光や後悔に引き摺られて、心ここにあらずな状態。最ももったいない状態です。
「未来を生きる」は、将来の安心や成長のために今を我慢しながら生きる状態。
老後資金を貯めるために今の生活を切り詰めたり、出世のために休日もずっと勉強したり(楽しいと思わない勉強)している状態と言えます。
親が子供に「大学受験のためにも今勉強しなさい!」と高校生に叱る場面もこれに近いかもしれません。
「今を生きる」はそれら2つよりは先進的な考え方で、今この瞬間に集中して生きる考え方です。
最近では「マインドフルネス」という言葉が随分使われるようになり、現在の1点に意識を集中するという生き方も少しずつ広がってきたと思います。
もちろんこの3つの中だと「今を生きる」が最も人間らしい生き方だと思うでしょう。私もそう思っています。 今に集中して目の前の作業に取り組むのはとてもいいことに思えます。
しかし「限りある時間の使い方」ではこの「今を生きる」も「未来を生きる」も同じだというのです。(「過去を生きる」についてはおそらく論外ということで本では触れられていません)
「今を生きる」と「未来を生きる」が同じとはどういうことか。
これが、僕がハッとさせられたポイントです。
それがどちらも『時間を使う』というスタンスに拠っているということです。
本の中ではこう説明されています。
今この瞬間にいようとする努力は、時間を未来のための道具にする態度とは真逆に見える。でも実を言うと、両者はほとんど変わらない。
結局どちらも「時間を最大限に活用しよう」という考え方のバリエーションにすぎない。
つまり「時間を活用しよう」という考え方自体がよろしくないので、時間を自分から切り離してとらえている2つの考え方(今と未来)はどちらも同じスタンスだということです。
あくまで時間というのは人間と一体化しているもので、「時間を使う」というのは誤った考え方というのが本書のスタイルです。
たしかに僕も生活の中で「時間を有効活用しよう」「時間を無駄に使ってしまった」など、時間をまるでモノであるかのように(そして自分とは切って離されたモノのように)考えていました。
本書に言わせるとこうです。
時間を「使う」という感覚が、人生の難易度を極端に引き上げてしまう
時間と自分の関係性を改める、強烈なカウンターを喰らいました。
3.あらゆるスピードが上がる現代において、2つの力が失われつつある
最後の1点は「スピード」に関する考え方です。
振り返れば、明らかに多くの生活スピードが上がっています。
電話やネットの接続速度、移動手段の時間の短縮、家具や家電の進化によるスピーディーな暮らし、新たな商品やアイデアやカルチャーの登場・・・
どれも科学技術の発展によってもたらされた、生活スピードの向上と言えます。
これらによって一見生活の質が上がったように見えます(おそらく実際に上がっているでしょう)が、この反動で人間の集中力・忍耐力が損なわれていることが大きなポイントと言えます。
昔はパソコンを起動してネットを開くまでに数分かかっていたのが、今では数秒で出来ます。
すると、たまに数分待たされるだけですごくイライラしてしまいます。
昔より早くなって便利になっているはずなので、忍耐力がなくなって余計にイライラしてしまうのです。
また、読書に関しても痛烈な表現がされています。
忙しすぎるとか、注意散漫だというのは言い訳にすぎない。本当はただ、読書には時間がかかると言う事実を受け入れたくないのだ。時間をコントロールしたいという僕たちの傲慢さを、読書は許してくれない。無理に急いで読もうとしても、意味がすり抜けていくだけだ。
これは僕が一番この本の中で衝撃を受けた部分でした。
衝撃を受けたというか「核心を突かれてしまった」と思った部分と言えます。
自分自身、読書が好きなのに本を読むのが苦痛に感じる時があります。
「もう読書に飽きてしまったのだろうか」と不安になっていたのですが、この文章を読んでようやく腑に落ちました。
読書には時間がかかるという事実(そして自分は早く読みたいという事実)を受け入れられないから読書から離れてしまうのです。
これは読書に限らず、音楽や動画、映画などあらゆるエンタメに共通することだと思います。
最近はどのメディアもショート動画機能を実装していることを考えればよく分かるはずです。
つまり、現代の生活に足りないのは「集中力」と「忍耐力」と言えます。
逆にこの2つの力を持つことができれば、他の人とは違った自分らしさが発揮できると言えるでしょう。
(もちろん、この2つを持たず刹那的な生き方を繰り返すことも、突き詰めれば自分らしさとなり武器となると言えるかもしれません)
もし「周りのスピードに付いていけない」と思う人がいれば、自分のスピードを大事にしてください。
正確には、自分のスピードを守りたいと思えることを見つけてみてください。
あなたが腰を据えてじっくりと取り組むことができることは、他の人には簡単にはできない武器になるはずです。
私にとっては読書や文章を書くことは、好きで集中できることの1つ。
この本を読んで改めて、その特徴を伸ばしていきたいと感じました。
終わりに
「限りある時間の使い方」
最近こういった時間術の本に触れていなかったからかもしれませんが、久しぶりにガツンとどつかれた気分になりました。
「時間を使おう」と思うこと自体が間違っていたなんで、これまでの人生で考えたことがありませんでした。
本の中では、ここでは紹介しきれない詳しい話や、生活で取り入れられるテクニックも載っています。
この記事でテクニックに触れなかったのは、まずは3つのポイントを知ってもらい、時間の本質に迫る体験を少しでもしてもらいたかったからです。
「人間と時間」という、少し哲学チックな話かもしれませんが、私たちが今生きているこの瞬間をより鮮明に捉えるための大事な考え方だと思います。
まったくの読書の初心者には取っ付きづらいかもしれません。
でも挑戦する価値がある本だと思います。
この記事を読んでからだと身構えてしまうかもしれませんが、ぜひ僕と同じように「テクニックでも学んだるか〜」という軽い気持ちで読んで、ぜひ打ちのめされてみてください。
そういった打ちのめされる経験こそが、読書の楽しみだと思います。
この本を読んで、私も本当に自分が大事にしたいことに向き合おうと思えました。
最後にもう1つだけ気に入った文章を紹介してこの記事を終わりにしたいと思います。
思い悩みがちな人にはきっと励みになる文章だと思います。
選べなかった選択肢を惜しむ必要はない。そんなものは、もともと自分のものではなかったのだ。
「この記事を読む」「この本を読む」と選択してくれた全ての人に感謝を。
それではまた別の記事でお会いしましょう。
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